朝井リョウ2作目の作品.漫画になったりアニメになったり映画になったりといろんな形で描かれているから読んだことも観たことも聞いたこともある人はおおいかもしれない.
とりあえず朝井リョウの作品を全部読んでみようとおもって手にとてみた.登場人物がワラワラ増えてきて,ええっとこれは誰だっけ,と読み返しながらじっくり読んだ.
感想は素直な青春スポーツ小説で朝井リョウの終始低空飛行から最後に上昇するかと思わせて墜落させる展開はなくて,桐島,部活やめるってよ,のように希望感の残るラストだった.文庫本で400ページを超える作品だからいろいろな展開があるかと思いきや内容はストイックに練習に取り組む場面が多い.恋愛話もすこしあったけど,それはただの勘違いで終わっていて,僕だったら悔しくてかなり凹むような場面もあっさりと描かれていた.
僕がこの小説から得たメッセージはつながりの大切さで,やっぱり誰だって一人で生きてはいけないし,いけるかもしれないけど一人よりだれかと一緒に生きてく方が幸せになれるんだと思った.
弟の晴希と姉の晴子のギクシャクした関係から始まるけど,終盤では晴希と晴子の関係は明確になってくる.
見てもらいたかった.ずっと.今まで,自分が春子の柔道着姿からもらってきたパワーを,今度は晴子に与えたかった.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.404
支え・支えられて生きていく.当たり前のことなんだけど当たり前すぎて忘れてしまうことも多い.色即是空,空即是色というようにやっぱり実態よりも形のないものが大切なんだなと気付かされる.周りの人とのつながりを意識して,それを大切にしていきたいなと思う小説でした.
この小説で僕が好きな一文.
誰かに応援されることは,こんなにも幸せなことなんだ.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.190
一人一人のエンジンに,誰かの存在がある.皆,自分の姿を見てもらいたい人がいる.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.303
家族より大切なものなんて,この世界に一つもござんせん.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.350
今日はこんなことをした,あんなことをしたって,毎日のことを家族に報告できるっていうのは,とても幸せなことです.それはった一言だっていいんです.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.430
できなくたっていいんだ.できないから人は練習するんだ.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.444
できないから,強くなる.人は,できないから,うまくなろうとするんや.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.462
たった一人,心から笑ってほしいと思う人が笑顔になったならば,それでいい.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.476
見ていてくれるだろうか.笑顔になってくれているだろうか.こんな自分から,パワーを感じてくれているだろうか.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.468
誰かのために頑張ろうってことは頑張った分その人が応えてくれるわけで,そこにつながりがあって,そのつながりは信頼なんだなって.
自分が正しいと思うことだけじゃ,あかん.自分と違う人にだって,歩み寄ろうとせなあかん.朝井リョウ「チア男子!!」,集英社文庫 P.462
言われてみれば,文章にしてみれば当たり前のことだけど,でもやっぱり何歳になってもそれができていない自分に気づくときがあって,思い描いていた大人とはぜんぜん違う自分にがっかりすることもあるけど,そうときは気づけて偉いとポジティブにとらえてその瞬間からひとつ成長すればいい.そうやって気付けるのも一人だとやっぱり難しいから,だから誰かと一緒にいることはいいことだなと思う.
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